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【症例B】 入院治療

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【症例B】 入院治療|MENTOR

MENTOR 第7章「ケーススタディ」

TEXT本文

患者(イニシャル):A. Y.         学年:中学1年生(13歳)

主訴:「自分を変えたい」

診断:DSM-5:自閉スペクトラム症(ASD)、社交不安症 ICD-10:F84.0, F40.1

初診日:20XX年X月X日

入院日:20XX年X月X日 入院時入院形態:任意入院

生育歴・現病歴:

幼少期より強いこだわりや感覚過敏が目立ち、育児は母親が一手に担っていた。小学校4年生以降、集団生活への適応困難と対人不安を背景に不登校となる。中学進学後も登校できず、家庭内で昼夜逆転やインターネット使用の増加がみられた。子どもから「自分を変えたい」との希望があり、家族の同意を得て入院に至った。

家族歴:

両親と3人暮らし。父親は会社員だが育児には消極的であった。母親はパート勤務を休職し、子どもへの関与が過剰となっていた。精神疾患の家族歴なし。

身体現症:

特記すべき異常所見なし。

精神現症:

受診当初は対人場面での過度の緊張、回避傾向がみられた。自他の感情の区別が曖昧であり、表情は乏しく視線も限定的。感覚刺激(音・光)への過敏も強く、他者の視線や声に過剰に反応する場面が多かった。

検査所見:

一般臨床検査:異常なし

脳波:正常範囲

脳画像(MRI):構造的異常なし

心理検査:

WISC-IV 全検査IQ:92 

言語理解(VCI)94、知覚推理(PRI)98、ワーキングメモリ(WMI)88、処理速度(PSI)86

特徴:処理速度と注意のばらつきが目立ち、SST場面での応答に遅れがみられた。

治療経過:

治療方針と今後の課題

子どもの「自分を変えたい」という希望と、家族の同意を踏まえ、環境調整と心理社会的支援を目的として入院治療を開始した。主治医と子どもとの話し合いを経て、薬物療法は行わず精神療法を軸とする心理社会的治療を計画。入院初期より週1回の多職種合同カンファレンスを継続的に実施し、以下のように段階的な支援を展開した。

  • 入院初期:静かな個室環境の確保、昼夜逆転の是正、感覚過敏への対応を優先。対人不安が強く、個別面接や低刺激活動から導入。

  • 中期:感覚刺激への耐性の確認後、段階的に小集団活動へ参加。SSTを通じた対人スキル形成、学習活動への導入。母子分離を意識した家族面談も開始。

  • 退院前:地域支援者を交えた連携会議(教育・福祉)を2回実施し、通級・訪問支援の体制整備を完了。退院後の支援目標と役割を明確化。

子どもの自己理解と他者理解を促進し、入院を「止まって考える時間」と捉え直せたことが、退院後の支援移行の足がかりとなった。

看護・心理・精神保健福祉士・作業療法士・教員:現状と課題

  • 看護師:感覚刺激に配慮した生活環境を整えつつ、昼夜逆転の是正と情緒の安定を支援。日々の関わりの中で子どもの不安の兆候を把握し、言語化を支援。

  • 公認心理師:週1回の個別面接を通じて、子どもの不安の構造化、誤解の修正、認知行動的アプローチを実施。SSTへの前段階支援も担当。

  • 作業療法士:感覚統合的介入のほか、段階的なSSTを導入し、対人関係スキルの獲得を支援。子どもの自尊感情の保持に配慮した活動構成を行った。

  • 精神保健福祉士:母子関係の調整、父の育児参加促進を目的とした家族面談を複数回実施。地域福祉との連携調整を行い、退院後の訪問支援や制度利用を整備。

  • 教員:子どもの学び直しの意欲を尊重し、個別学習支援を実施。学力評価よりも成功体験の蓄積を優先し、学習回避への支援も実施。将来の進路に向けた保護者との協議も行った。

退院後の経過と支援状況

退院後は、地域との連携体制を維持しながら、段階的な自立支援と家族支援を継続している。具体的には以下の通りである。

  • 医師・公認心理師による外来フォローアップ(月1回)を実施。子どもの不安水準や対人困難を共有し、継続的に自己理解を深める支援を行っている。

  • 作業療法士との外来SST(隔週)では、対人関係・学校生活での困りごとを取り上げ、実践的に対応スキルを育成。

  • 通級指導教室への週2回の通学支援を開始し、当初は保護者同伴、後に単独での参加が可能となった。

  • 訪問支援(月4回)を地域のNPOスタッフが実施し、生活リズム支援と余暇活動の調整を担う。

  • 母親への定期的な家族支援(電話・訪問)を精神保健福祉士が継続。父親の関与も段階的に進められている。

  • 在籍中学校とは教育支援会議を定期開催し、将来的な学びの場への移行支援について合意形成が図られている。

現在、子どもは家庭内での生活リズムが安定しつつあり、前向きな言動も増加している。支援者・家族・子どもの三者が協働する形で、段階的な生活再構築のプロセスが継続されている。

本症例の問題点:

対人不安と感覚過敏のため集団場面への参加が困難であったが、心理社会的支援により段階的に改善がみられた。家族機能において母子の密着と父の関与不足という構造的課題があり、家族支援の介入が必要であった。入院期間中に、多職種協働・家族支援・地域支援の連携が段階的に構築され、退院後も一貫した支援が継続可能となった。本症例は、「児童・思春期精神医療における多職種連携と地域連携モデル」の具体例として位置づけられる。