子どものこころ総合診療センターは、子どもと共に歩んでいくことができる専門家の育成と、子どものメンタルヘルスに関する情報発信を目指しています。

【症例A】 クリニック/外来治療

トップ > ケーススタディ > 【症例A】 クリニック/外来治療|MENTOR

【症例A】 クリニック/外来治療|MENTOR

MENTOR 第7章「ケーススタディ」

TEXT本文

患者(イニシャル):S. H.  学年:小学4年生(10歳)

主訴:「学校に行くのが怖い」

診断:DSM-5:社交不安症(Social Anxiety Disorder) ICD-10:F40.1

初診日:20XX年X月X日

既往歴:特記すべき事項なし(必要に応じて記載)

生育歴・現病歴:

発達早期に目立つ遅れはなかったが、初対面の人との接触を極端に避ける傾向がみられた。小学校2年生ごろから授業中の発言や発表を嫌がるようになり、3年生に進級後は給食やグループ活動への不参加が目立つようになった。学級担任との関係性悪化を機に、身体症状を訴えての欠席が増加し、4年生進級直後から完全不登校となった。保護者の勧めで地域の小児科を受診し、紹介により当クリニック初診となる。

家族歴:

両親と3人暮らし。母親はフルタイム勤務の看護師、父親は転勤の多い営業職で家に不在がち。両親とも精神疾患歴なし。父親は子の悩みに無理解な傾向があり、母子関係がやや密接。

身体現症:

特記すべき異常所見なし。

精神現症:

初診時、診察室に入ることに強い抵抗を示し、母親の後ろに隠れていたが、徐々に着席。発語はあるが小声。医療者との視線を避け、質問への応答は限局的。登校や人前での発言に対して強い羞恥心と不安を自覚している。

検査所見:一般臨床検査:異常なし

心理検査(WISC-IV):全検査IQ:96 VCI:100、PRI:98、WMI:94、PSI:88
→認知機能に顕著な偏りはなく、処理速度や作業遂行場面での不安の影響が示唆された。

治療経過:

治療方針と今後の課題

外来通院を継続しながら、心理社会的支援による社会不安の軽減と自己効力感の回復を目指した。初診直後から主治医・公認心理師・精神保健福祉士・教員(スクールコーディネーター)を含む連携体制を構築し、月1回の外来多職種ミーティングを実施。子どものペースに配慮した支援と家庭・学校・地域の連携強化を段階的に進めた。

各職種の関与と役割

  • 医師(主治医):子どもの主訴と生活状況の整理を支援し、診断・治療計画を保護者と共有。薬物療法は行わず、心理社会的介入を優先。

  • 公認心理師:隔週面接を実施し、社交不安の認知的特徴に焦点を当てたCBT的アプローチを実施。対人場面の回避を分解し、安心して試せる行動課題を設定。

  • 精神保健福祉士(精神保健福祉士):家庭環境の整理と保護者支援を実施。父親の理解促進のための家庭訪問や家族面談を実施。学校との連携会議にも同席。

  • スクールコーディネーター(非常勤教員):校内委員会との連絡役を担い、保健室登校や分離登校など子どもの希望に沿った柔軟な教育支援を提案・調整。

地域連携と支援の進展

クリニックと学校で計3回の個別支援会議を実施。通学の再開に向けた段階的支援を策定。NPOスタッフとの連携で、余暇活動への段階的な参加をサポート。保健室登校(週2回)が可能となり、徐々に登校日数が増加。通学支援員の付き添いも導入。保護者は母親の育児疲労が軽減し、父親の行事参加や面談出席が増えるなど、家族機能の改善がみられた。

12)現状と評価
初診から8か月が経過し、子どもは週3回の登校が可能となっている。教室での活動は保健室や個別教室から開始され、徐々に拡大中。公認心理師による面接では「発表が怖くなくなった」「友達の顔を見てもドキドキしない日がある」と発言しており、認知的変容がみられる。多職種間で情報を定期的に共有し、子どもの不安の波を見越した対応が可能となっている。

本症例の問題点:
社交不安による強い回避と、保護者の対応の困難さが重なっていたが、多職種・地域との緊密な連携により、子どもの安心感を土台とした行動変容が可能となった。家庭・学校・医療が協働して、個別支援の構築と柔軟な修正を重ねたプロセスは、本マニュアルが目指す「クリニック/外来における多職種連携モデル」の具体例である。