毎日のようにマスメディアを通じて児童虐待や子どもの自殺に関するニュースが流れています。世界の児童・青年のうち約20%が精神障害・問題を抱えており、児童と青年において、メンタルヘルスを促進し、精神障害を予防することを目的とした介入は有効であると同時に費用対効果が高いとされています。一方で、わが国の児童虐待は増加の一途をたどっており、子どもの自殺問題や発達障害の急増、災害後の子どものこころのケアの必要性なども繰り返し指摘されてきております。一方で、児童精神科医の少ないことに加えて児童思春期専門病棟は全国に30施設ほどしかありません。その社会的な重要性に反して、わが国の児童精神科医療は充分に整備されておらず、その均てん化が喫緊の課題と言えます。
そのような中に平成31年4月1日に国立国際医療研究センター国府台病院に「子どものこころ総合診療センター」が設置されました。このセンターは児童精神科診療科を運営する組織として、児童精神科、小児科、心理・指導室、児童精神科病棟を管理運営していく予定です。まずは、組織編成だけで、建物の整備等の目処は立っておりませんが、子どものこころ総合診療センターという組織の設置により、当院の子どものこころ総合診療センター(児童精神科)を内外にアピールし、わが国の子どものこころに関する医療・臨床研究・国際協力・人材育成の分野を牽引していく組織として活動していく予定です。
国府台病院には、わが国で最も古い児童精神科の一つであり、1948年に精神科の一部門として児童部として始動しました。当時の村松常雄院長は、総合病院として発展させるためにも、里見分院(現在の里見公園)の病棟を児童部として立ち上げしました。ここから国府台病院の児童精神科の歴史は始まります。当時として珍しくソーシャルワーカーを含めた多職種離床チームで活動してきた特徴があり、地元児童相談所や1951年学校教育法に基づいて新たに設けられた特殊学級などとの交流をもつなど,児童精神医療には欠かせない地域活動も積極的に行なってまいりました。1965年には児童精神科入院児のための国内初となる院内学級が千葉県市川市により設置されました。さらに、現在でも使用している児童精神科専門病棟と外来棟が、それぞれ1972年と1975年に建てられました。現在も多くの子どもたちの思い出が詰まったこの外来棟と病棟を大切に使いながら、我々は児童精神科医の育成、研修事業、被災地支援、臨床研究、国際協力と多岐に渡った活動を多職種にて実践してきております。
私たちが児童精神科医療において、地域の福祉機関や教育機関と繋がった多職種による臨床チームが重要視する理由として、子どもの資質のみを問題にするのではなく,幅広い視野で子どもを理解することが大切と考えているからです。このように子どもを生物学的・心理社会的な視点を様々な職種によって持ち寄り、可塑性に溢れたひとりの人の成長を見守っていくという児童精神科医療の根幹を国府台の地で示し続けてきたのだと思います。
児童精神科は昭和・平成・令和と時代を重ね、「子どものこころ総合診療センター」として変化し、偉大な先人たちの残した児童精神科医療を、これらも国府台の地で続けていきたいと考えております。
どうぞ、ご理解とご支援のほどよろしくお願い申し上げます。
国立国際医療研究センター国府台病院 子どものこころ総合診療センター長
宇佐美 政英