昨今、日本だけでなく世界中で自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorders)への注目は高まっています。なぜなら、その診断を受ける子どもや大人の数が世界中で激増しているからです。1975年には5000人に1人であったのが、2009年には110人に1人まで急増しているとされています[1]。驚くほどに増えていますが、その理由は未だはっきりとはしていません。
自閉症の疾患概念は1943年にレオ・カナーが他者への関心の乏しさ、言語発達の遅れ、周囲の変化への過敏さ、の三つの症状をもつ子どもについて報告したことが、その始まりとされています。1980年代には操作的診断基準の普及とともに、社会性の欠如、コミュニケーションの障害、想像力の欠如、の三つの中核概念を持つ広汎性発達障害(PDD)が確立しました。2013年に登場したDSM−5では広汎性発達障害は自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder:ASD)に名称が変更され、その診断基準も大きく変わりました。ASDの診断基準にはコミュニケーションおよび相互関係における持続的障害と、限定された反復する様式の行動・興味・活動、という二つの領域に絞られ、自閉性障害やアスペルガー障害などのサブカテゴリは消失し、今までは併存障害として認めてこなかったADHDの併存も認められるようになりました1。このように自閉症に始まり、PDDからASDまで自閉傾向を持った子どもの臨床的な評価は時代とともに基準や病名が変化してきています。それでも、カナーが提唱した三つの中核概念は今でも大事な概念として臨床現場で生きていると言ってもよいでしょう。
自閉スペクトラム症を完治させる治療法は残念がなら現時点では存在していません。そうなると自閉スペクトラム症という特徴をより理解し、その特徴にあった環境を調整していくことがよいのかもしれません。両親と専門家が協力して、子どもの人生全体を勘案しつつ、その個性を受け入れ歩みよることが重要となってくるでしょう。しかしながら、時にパニックが激しい、自傷が止まらない、夜が寝ないなどの問題行動が顕在化することもあるでしょう。そのような場合に、混乱の少ない環境へと調整することで、彼らの混乱が収まり、それらの問題行動が収まることもあります。しかしながら、どのように対応を変えても、環境を調整しても、その問題行動が変化しない緊迫した状況になることもあります。そのような場合に薬物療法が必要になることがあります。実際にわが国では自閉スペクトラム症の易刺激性に対してリスペリドンとエビリファイの二つの薬剤が適応となっています。いずれの薬剤も臨床治験を通じて有効性と安全性が認められていますが、その使用に関しては主治医とよく相談の上決定することが望ましいでしょう。