子どものこころ総合診療センターは、子どもと共に歩んでいくことができる専門家の育成と、子どものメンタルヘルスに関する情報発信を目指しています。

注意欠如・多動症

 ADHDとは注意欠如・多動症(Attention Deficit Hyperactivity Disorder)の略語で、不注意、多動性、衝動性の3症状を中心とした発達障害の一つです。典型的な行動は「忘れ物が非常に多い」「じっと座っていられない」「順番が待てない」などで、そのような行動が普段の生活の妨げになることが知られています。幼少期に診断を満たしていたとしても、時間的経過とともにその症状は軽快するが、その症状が完全に消退することもあると示唆されています4,5。ADHDは成人期まで診断基準を満たすかは別としても、その症状が継続する疾患であり、成長とともに様々な病態を示していくことになります。ADHDの並存障害は不安障害や気分障害などの内在化障害だけでなく、反抗挑戦症や素行症などの外在化障害まで多様な臨床症状を示します6-8

 ADHDの場合、落ち着きがないのは決して親のしつけや育て方の問題ではなく、前頭葉などの脳の機能に障害があると考えられています1011121314151617。ADHDの生物学的基盤は現在まで多角的に検討されて来ており、未だその全貌が見えてきません。

 ADHDの治療では、周りの人に病気をよく理解してもらうことが一番大切です。症状に対して「どうしてじっとしていられないの」などと叱られたり怒られたりしているうちに、「どうせ怒られる」、「また失敗するからやらない」と考えるようになり、委縮して自己評価が低い子どもになってしまうのです。そこで、どのような声かけをすればいいのか、親同士で学ぶ「ペアレント・トレーニング」というプログラムを含めて、医療機関、役所や教育機関、療育センター、児童相談所などが様々な相談窓口となっています。そのほか、物がたくさん置いてあると気が散りやすいので、部屋を片付けて目からの刺激を減らすといった環境整備も大切です。こうした対応をした上で、必要最低限な薬物治療も考えます。現在、A D H Dに使用できる薬剤は4種類ありますが、コンサータとビバンセはその薬剤特性から処方が厳格に制限されています。

 症状は学童期がピークで、成長するに従い軽減していきます。「忘れっぽいが、これだけはできる」という自信が持てる何かを学童期にみつけ、ほめて得意なものを伸ばしていくとよいでしょう。