SELECTIVE MUTISM選択性緘黙(かんもく)ってどんなもの?
家ではおしゃべりなのに、学校など特定の場所では、話したくても話せなくなる状態です。「わざと黙っている」「わがまま」ではありません。強い不安が背景にあります。
どんな様子ですか
- 家族の中では普通に話せる(にぎやかなことも)のに、学校や、ほかの特定の場面では、まったく話せなくなる。
- その状態が、少なくとも1か月以上続く。
- 話す能力や、言葉の知識には問題がありません。話せないのは「話したくない」のではなく、「話せない」のです。
- 音読、発表、音楽、体育、行事など、声を出す場面や、グループ活動が苦手です。
- 幼児のころ(3歳ごろ)から症状があり、小学校入学で目立つようになることもあります。
話せないことで、まわりから誤解されたり、教室の中で孤立してしまったりすることがあります。
BACKGROUND原因と、重なりやすい困りごと
原因は、ひとつでは説明できません。もともとの気質(慣れない場面が不安で、尻込みしやすい)、遺伝的な影響、心理的な要因、言葉の環境(引っ越しや外国語環境など)が、重なっていると考えられています。
- 「愛情が足りない」と言われても:原因がはっきりしていないために、「もっと愛情をかけて」「もっと話を聞いて」といった、子育て論に結びつけられてしまうことがあります。これまで十分に愛情をもって接してきた保護者の方が、無力感や罪悪感を抱いてしまうのはとてもつらいことです。保護者の方の責任ではありません。
- 重なりやすい不安:人前での強い不安(社交不安)や、離れる不安などが重なることが多くあります。うつ病や発達の特性、体の病気(耳や喉)などがないか、あわせて確かめます。
- 人見知りとは違います:引っ込み思案の子と違い、よく知っている人には頼って話せますが、知らない人や集団では、話すことをやめてしまう傾向があります。
SUPPORT支援と治療の考え方
「緘黙を直す」というよりも、「いつか来る、話す日」までのあいだに、話せないことで失ってしまう社会的な経験を、できるだけ少なくして備える、という考え方で支援します。治療には長い時間がかかることが多いですが、こちらが予想もしないタイミングで、お子さんが最初の声を出すこともあります。それは、お子さん自身のタイミングで、殻を破って出てきたようにも見えます。
よく観察する
かすかなうなずきやまばたきなど、言葉以外の反応も見逃さず、お子さんのストレスの度合いを読み取ります。
遊びを通じた関わり
遊戯療法などを通じて、不安を和らげ、関係をゆっくり築きます。
家庭・学校との連携
どの場面でどれくらい話せるか、周りの人の反応、求められる発話の長さなどを整理し、学校での要求や関わり方をいっしょに考えます。
お薬について
基本的には、薬物療法は行いません。心理的な支援が中心です。不安の強い状態に使われる薬の候補はありますが、選択性緘黙そのものに対する効果が確かめられた薬はなく、子どもでは慎重な使用が求められるため、必要があっても、利点と注意点を十分に説明してから検討します。
OUTLOOK経過について
成人になるころには、症状が改善している場合が多いことがわかっています。ただし、話せるようになっても、コミュニケーションの苦手さや、不安などがしばらく残ることがあります。早めに相談し、周りの支えを得ながら、時間をかけて取り組むことが大切です。
FOR FAMILIES保護者の方へ
お子さんは、話さないことで、「不安だよ」という強いメッセージを発信しています。話しかけても反応がなく、会話が続かないことで、周りの大人が不安になるのも自然なことです。その不安を抱えながら、お子さんのそばにいてくださる保護者や先生方の苦労を、私たちはねぎらいます。気になることは、ひとりで悩まず、ご相談ください。
このページは、宇佐美政英「児童精神科医が伝えたい子どものメンタルヘルス」(月刊薬事、2021年)の内容をもとに、保護者・一般の方向けにまとめ直したものです。診断や治療は、お子さん一人ひとりの状態に合わせて、医師が個別に判断します。