ABUSE & TRAUMA虐待とトラウマ、子どものこころへの影響
つらい体験は、子どものこころと、その後の長い人生に影響を与えることがあります。一方で、適切な支えがあれば、回復していくことができます。安全と安心を取り戻すことが、治療の出発点です。
児童虐待の4つのかたち
身体的虐待
殴る、蹴る、激しく揺さぶる、やけどを負わせるなど。
ネグレクト
食事を与えない、ひどく不潔にする、病気でも受診させない、家に閉じ込めるなど。
心理的虐待
言葉による脅し、無視、きょうだいでの差別的な扱い、子どもの目の前での家族への暴力(DV)など。
性的虐待
子どもへの性的な行為や、性的な行為を見せることなど。
IMPACT子ども時代のつらい体験が与える影響
虐待のほか、暴力を目にすること、家族の自殺未遂、親の病気や依存、家族との別れなど、子どもの安全感や安定感、人との絆を損なう体験を、「子ども時代の有害な経験(ACE)」といいます。こうした体験は、成人後の心身の健康、学業や仕事、収入にまで影響することが、研究で示されています。
ただし、同じ体験をしても、影響の出方は人によって違います。生まれもった体質と、まわりの環境(特に、支えてくれる人がいるか)が、お互いに影響し合うことがわかっています。周りの大人の支えは、子どもを守る大きな力になります。
PTSD(心的外傷後ストレス障害)と、複雑性PTSD
- PTSD:恐ろしい出来事のあとに、①出来事の再体験(悪夢、フラッシュバック)、②思い出させるものの回避、③「いまも危険だ」という感覚が続く、という症状が出ます。
- 複雑性PTSD:長く、繰り返されたトラウマ(家庭内の暴力や、繰り返される虐待など)のあとに、上の3つに加えて、④気持ちの調節の難しさ、⑤自分は価値がないという考え、⑥人間関係の難しさが出ます。
「PTSDと診断されなかった」ことは、「つらい思いをしていない」ということではありません。診断は、基準に当てはまるかどうかの判断であり、お子さんのこころの状態をすべて表すものではありません。
TREATMENT治療の進め方
まず、安全と安心
虐待が続く環境では、治療は進められません。安心できる環境の確保が最優先です。医療だけでなく、児童相談所や学校、地域の福祉との連携が欠かせません。
トラウマに焦点を当てた認知行動療法(TF-CBT)
子どもと、安全な養育者がともに参加するプログラムです。つらい体験への理解を深め、気持ちの整え方や、将来の安全を学びます。子どものトラウマ治療の第一選択として、推奨されています。
薬は補助的に
子どもで効果が確かめられた薬は多くありません。不安や落ち込み、眠りなど、つらい症状を和らげる目的で、慎重に使うことがあります。
入院治療が役立つとき
家庭や地域で安全を確保しにくいとき、気持ちの混乱や行動の激しさが強いときには、入院治療が役立つことがあります。安心して過ごせる環境の中で、同年代の仲間と過ごしながら、人への基本的な信頼を少しずつ取り戻していきます。ただし、入院だけでは、元の環境が変わらなければ回復には結びつきません。退院後の生活を見すえて、福祉・教育とも連携します。
FOR ADULTS周りの大人の方へ
- 子どもが虐待を受けているかもしれないと思ったら:ためらわず、児童相談所の全国共通ダイヤル「189(いちはやく)」に連絡してください。通話料は無料で、24時間つながります(一部のIP電話からはつながりません)。「虐待かどうか、確信がない」という段階でも大丈夫です。子育ての悩みの相談にも使えます。通告した方の秘密は守られます(こども家庭庁の案内 ↗)。
- 子どもが話してくれたとき:疑ったり、問いただしたりせず、勇気を出して話してくれたことをまず受け止めてください。
- 子育てに悩んでいる保護者の方へ:つらくなったとき、ひとりで抱え込まず、早めに相談してください。叱ってしまう自分を責めて、苦しんでいる方も少なくありません。
このページは、宇佐美政英「児童精神科医が伝えたい子どものメンタルヘルス」(月刊薬事、2021年)の内容をもとに、保護者・一般の方向けにまとめ直したものです。診断や治療は、お子さん一人ひとりの状態に合わせて、医師が個別に判断します。